2007年08月05日

白い気づき




東京タワー近くの路上で途方に暮れる。
休日出勤して向かった先がお休みだった。
アスファルトとビルと、夏の太陽。
開かないビルの戸をにらんだ僕に迫ってくる。

「それなら、それで」

自動販売機の取り出し口に手を突っ込んでペットボトルのお茶をとり歩きだす。

久しぶりの一人の休日、にしよう。

愛宕山トンネルの脇。何やら階段がある。
木製の幅の広い階段は、山の上まで続いていて見ているだけで汗が噴き出しそうだ。
でも、登ってみる。プチ冒険気分。
小さな森を抜けると、今度は反対側に降りる階段がある。
狭くて角度の急なその階段は、それでも踏み出してみるとまるで
空中を歩いているような楽しい気分にさせてくれる。

「ラフマニノフのCDを買う。それも渋谷で」

僕はそう決めて、虎ノ門から銀座線に乗り込んだ。

土曜の昼。
すんなり座れた上、車内が狭いこの電車は冷房が良く効いている。
僕は身体の力をようやく抜いた。

向かいのおばさんの手が不自然に小刻みに揺れている。
中風かな・・
おばさんの手に注いでいた僕の目に、急に青い光が飛び込んでくる。
おばさんの肩越しの窓だ。

「東京の地下に海があって、そこをイルカが泳いでる?」

まさか。

それは、グアム観光の宣伝だった。
地下鉄の壁面を使った、イカしたパラバラ漫画。
普通と違うのは、絵の方をパラパラさせるのではなく、
主観、つまり僕の方が移動しているから動画のように見えるという仕掛け。


それをぼんやり眺めながら、僕は、一つのことを考える。

「そろそろ名前を付けたいな」

物に− でも、ペットに−でもない。
名前を付ける対象は、「一つの心」。
ここ数日考えている。いや、もう何年にもわたって考えていたのかも知れない。
それは、人をシアワセの方向に歩ませる心の作用。方法論、といってもいい。

不幸に見舞われた人を、たくさん見てきた。

人が変わったようにわがままになった人がいた。
ぐれる奴もいた。
手首を切って心の混沌を他人にぶつける人もいた。

「ルールを破ることでしか、心の安寧を保てない・・」
それは、怖いことなんじゃないかな、と思う。

再び真っ黒になった銀座線の窓を見つめながら、僕は名前を決めた。

白い、気づき。
これにしよう。

〜不幸を幸福に〜まではいかなくても、せめて〜破滅は避けられる〜はずの心の作用。
「限りある命」という宿命を背負いながら、それでも生きるために
太古ネアンデルタール人も、明石原人も、きっと考えた方法論。

白い、気づき。

感情をはき出したあと。
そんな気づきを持てる人に
なっていきたい。せっかく名前も付けたことだし。

「白い、気づき。それで、いい」

人混みの中で見るハチ公は
左の耳をぺこんと折っていて
それが何だか
僕にウインクしてくれているように見えた。




posted by 白井麒麟 at 03:01| 東京 ☀| Comment(0) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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