2007年12月27日

きゃろるの唄







キャロル・キング

「You've Got A Friend」





イヤホンの細長いケーブルを通じて
久しぶりに出会ったその曲。

地下鉄を待つ列
並んだ僕の身体を、その歌詞が駆け抜ける。





   ♪You just call of my name
    And you know wherever I am
    I'll come running to see you again





僕は途端に、小学校の先生をママと呼んでしまった児童のように赤面し、
それから、群衆を忘れてうっとりとニヤついたり、
ちょっと瞳の表面を湿らせたりという、
テンテコマイの慌てぶりになってしまった。

あの、人懐っこい顔が蘇ったから・・





**




僕の会社に、一時、アメリカ人がいたことがある。



Sちゃん(男性)はハーバード大の学生で、長い夏休みに
日本の(地方の)企業について学ぼうと、研修に来ていたのだった。

ダンガリーにチノパン。ハンサムと言えなくもない。
両親は日本人とのことだが、在住経験がなく日本語はほとんどしゃべれない。
「初めまして」のカタいあいさつのあと、彼は緊張気味に
『何か地元の言葉を教えてほしい』と切り出した。




「地元の言葉・・。ええんじゃねぇん!」


とっさの思いつき。


「エエンジャ・・? ドウイウイミデスカ?」
「What a cute she is! 街でもどこでも可愛い女の人とすれ違ったら、
俺の方を向いて『ええんじゃねぇん!』と言ってちょうだい」
「ソウデスカ。エエンジャネェン・・」



彼は目を点にしたあと、少し笑った。




僕はSちゃんをよく夜のドライブに誘った。
当時の僕は入社して四カ月ほどの若造で、
田舎町の夜の楽しみで思いつくのはそのくらい。
最初のボーナスをあてにして買った車で、海辺のドライブコースを走った。

そこで、色んな話をした。
音楽のこと
女性のこと
日米の若者の文化の違い
ジャーナリズムと政治とか難しいことも・・
その時の僕は、日本語と、身振りと、わずかな英単語をミックスして、
Sちゃんとコミュニケーションをとっていた。
今思えば、まさにルー的な・・(笑)




例えばエッチな話をした時とかに、Sちゃんが見せるはにかんだ笑顔が
僕はとても好きだった。
いつの間にか、僕はいつも彼のことが気にかかるようになっていた。
付き添っていなくて大丈夫かな、とか
退屈な思いをしていないかな、とか。
会社のデスクで彼が退屈そうだったり、落ち込んでいるような顔を見せるたび、
僕はなぜか、とても申しわけないような気持ちになった。
『会社に、郷里に代わってお詫び申し上げまする・・』
そんな感じ。



そして。



駆け出しだった僕自身にも、いろいろあった。
『どうして上手くいかない・・?』
現場からの帰り道には、イライラした気持ちを引きずっていることも多く・・。





そんなある日。





「ヘイ」

アシスタント兼見学で付いてきていたSちゃんが、不意に僕の肩をたたく。
そういえば、長い間無言のまま二人で歩いていた。

「・・何?」

『今しゃべりかけるなぁぁ』的なオーラを身にまとったまま僕が振り向く。
Sちゃんは、向こう側の舗道を指さしている。



「エエンジャネェンッ!」



『! ・・やられた・・』

綺麗なストレートヘアを揺らして歩くOLの後ろ姿。
それと、Sちゃんの満面の笑みを見比べながら
僕は吹き出してしまった。
まるで、百点の答案用紙を親に見せる子どものような顔だった。





**





アメリカの夏休みが長いといっても限りはある。
二カ月はあっという間だった。

日本を去る前に何か・・。




「キャロル・キングって知ってる?」




デスクワークをするSちゃんに話かける。




「I Don't Know」




僕は、自分のデスクに戻り、便せんに英語の歌詞を書き始める。



 ♪Winter,spring,summer,or fall
  All you have to do is call
  And I'll be there
  You 've got a friend!




**




まさか、その十五年後に
僕たちが
東京で再会することを
誰が想像しただろう・・



今はNYに住むSちゃんが、去年の夏
東京に出張のついでに
僕に電話をくれたのだ。




夕暮れの銀座和光で
Sちゃんを待つ。

雑踏。

落ち着かない頭の中を、
キャロル・キング
強くも繊細な歌声が流れる。




そして、もちろん
僕の顔は
真っ赤に染まっていた。

小学校の先生をママと呼んでしまった
児童のように。






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posted by 白井麒麟 at 01:45| 東京 ☀| Comment(4) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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