2007年08月14日

ゲルマラジオ

アキバの街を走り回る。

ゲルマニウムラジオ。その部品を手に入れたい。
夏休みの自由研究のために。
秋葉原に行けば売っているとネットに書いてあった。

夕暮れ時、雑踏、メイド服の娘たち。
その中を小五の娘は無言でついてくる。

「ラジオデパートとラジオセンターのどちらでもあるよ」

まずはデパート。おじさんが親切に教えてくれる。
要するに「ここにはない」ということだった。

「センターにあると思うけど、7時にしまっちゃうよ」

そんなに早く閉まるのか。
時計を見ると18時50分。お台場冒険王で時間をとられすぎた。

横断歩道はやけに信号が長く、人がうじゃうじゃいる。
娘が赤信号をにらみながら足をトントン言わせている。

狭い通路。
わけの分からない小さな部品をこぎれいに整頓したような小店が
ぎしぎしに集まっている。センターとは店の集合体らしい。

おじさんが教えてくれた店。
店員が客と長話をしている。
機械の配線のことを口だけで説明しているものだから
要領を得ずなかなか終わらない。
しびれを切らし、話しかけてみる。

「すみません。ゲルマラジオの道具を売ってると聞いたんですが」

「・・うちにはありませんよ。そーね。
置いてる店も全部しまっちゃいました」

! まだ7時にはなっていないというのに・・
おじさんの眼鏡がいたずらっぽく光る。

娘と二人、舗道で途方に暮れる。
中古のDVDやら電子手帳やら。
店先から賑やかな音。

暮れかかった街のビルネオンをぼんやりと見る。
日本で一番の電気街。
僕が今ほしいものが一番手に入りやすい街。
それなのに、この街はまるで迷宮のようで
探し物が見つかる気がしない。

そうして、7時も過ぎていく。

「さっき、ガードレール飛び越えた人がいたね」
「コスプレの人っていうの? 初めてみた」

そういえば、娘は秋葉は初めてだった。

「・・行くぞ」

僕はもう一度センターに向かった。
別の店の軒先でお兄ちゃんが棚の整理をしている。

「すみません・・ゲルマラジオの・・」

振り返った顔は幼く、僕は頼りなく思った。

「ゲルマ・・ああ、無電源ラジオですよね。こっちですよ」

狭い通路を通って案内された先は・・
さっきの意地悪おじさんの隣の店ではないか。
確かにもう商品棚に布をかけて店じまいしている。

「おじさん、ゲルマラジオだって」

お兄ちゃんの声に奥にいたおじさんが振り向く。
ちょっと考えて、「その真ん中あたり」と指さすと、
また背中を向ける。
お兄ちゃんが布をめくると・・

「ああ、ありましたよ。
これがアンテナ、これがリード線とバリコン・・」

お兄ちゃんは、部品を一つひとつ手にとっていく。
ネットでみた通りの部品が、全部ある。


「ありがとう」

頼りなげに思ってごめん。

喫茶店に入ると、娘は
待っていたお母さんのところに行き、
アイスクリーム盛り合わせを注文した。
そして、初めてのアキバ探検記を興奮した様子で話していた。

僕は運ばれてきたメロンソーダに、娘の三つのアイスのうち
一つの半分を浮かべた。



posted by 白井麒麟 at 14:22| 東京 ☀| Comment(0) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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