2007年09月30日

出張二日目の空っぽの時間


午前十時。
ホテルをチェックアウトしてリュックを背負い直す。
あてどもなく歩き出す。

横断歩道。
「ビー・ビービー・ビービビ・ビー」という、通りゃんせのメロディとともに
「天神」という交差点の表示が目に入る。
そのメロディが、しばらく歌詞付きで頭の中でリピートする。
「・・ここはどこの細道じゃ〜 天神様の・・」
!!
そうか。ここは博多天神だから「通りゃんせ」だったのか・・


得意先との親睦旅行は、去年同様、福岡になった。
そして、去年同様、二日目はひとりで過ごすことになった。
僕はゴルフをしない。



博多路地




「去年と違う道を歩こう」

ふらふらと路地を曲がると、妙な女の子が立っている。
赤いブラウス、黒いビスチェ、紫がかった髪、ピンクのバックを斜めがけ、
そして、太った身体・・
その娘が歩き出した方向と僕のそれが一緒だったので、僕はしばらくその娘の後ろをついていく格好になる。

「このままちょっとついていってみよう・・」

視点同一化。いわゆるイタコ術。
白いふわふわのスリッパをペタペタいわせながら、悠然と歩く。
すれ違うカップル、おばさん・・みな困惑したような視線。
それが四方八方から突き刺さってくる感じ。
それをものともせず、黙々と歩いていく。
コンビニの前を通過する時。
座り込んだチンピラ風の男、数人、にやけ顔。

「もえ〜っ!」

娘は三歩進んだところで振り返る。

「バカじゃなかとっ?!」

すぐに前に向き直り、何もなかったように歩き出す。
彼女から見た世界はとてもスリリングだ。




彼女からスピリットを取り戻して、歩く。
ケータイで写真でも撮ろうと思うのだが、撮りたい絵が見つからない。

「昨日、あれを撮っておけばよかったなぁ」

昨夜遅く、「焼きラーメン」を食べた。
舗道に並んだ屋台、裸電球の列、ラーメンと赤い字で書いた白い暖簾、
「お客さん、座って食べて。立って食べられると警察に怒られちゃうから」
という店のおじいさんの声・・。

あれが、今回の僕にとっての福岡だったんだ、と。
大切なものは過ぎてしまってから気付くという、恒例の失敗をまたも繰り返したわけで。



秋ですね




僕は、昨日という一日の中に、何か忘れ物をしている。

それが何だか思い出せない。

またも聞こえて来た「通りゃんせ」。
何度も聞くには、このメロディは少し陰鬱だ。
僕は歩くのにちょっと疲れたというのを理由に、ガストに入る。
せっかくの福岡で、ガスト。
最悪の選択にちょっと照れながら、昨日のことをノートに書き始める。





昨日。
僕は、福岡に向かう飛行機の中で、一つの決意を胸にしていた。

『今日こそ、中洲で、風俗デビューを果たす』
・・嘘。
もう少し重いこと。

少し面倒くさいカンファレンスや見学会をこなし、夜。

中年男ばかり九人。
スナックのボックス席。
敬語? タメ?
手探りの、ぎこちない空気。
たびたび訪れる沈黙・・。


「はい、みんな二千円ずつちょーしゅー。カラオケ得点でトップ総取り。トップの人だけがイイトコロに行けまーす」


幹事のその一言で、おおっとなる。
男はバカだ。

トップバッターは僕。選曲は・・ギャランドゥ(ばか)。八十一点。

得意先O氏は、これまでの最高得点曲というオフコースのYES−NO。七十六点。

結局、「そういうトコロには行きません」と宣言していた、得意先のM氏がNO,NEWYORKで九十九点を出してしまい、終了。
大ブーイング。







♪俺たちは まだちっぽけで 手のひらの中には

この手のひらの中には 何もないけど





「ちっぽけな勇気(ファンキーモンキー・ベイビーズ)」
最後に、全員スタンドアップの爆音で歌う。








♪雨に打たれ 風に吹かれ でもあきらめないから

でもあきらめたくないから 

きっといつか 何かをつかむんだ

ねぇそうだろ ねぇそうだろ






ちょっとせつない。


北海道出身の二十六歳
東京出身の三十二歳
横浜出身の三十五歳
福岡出身の三十九歳・・








♪情けないほど小さな勇気と

恥ずかしいくらいの大きな希望

胸に抱えて いつまでも・・









みんなどんな気持ちで歌っているんだろう。
スナックの風景がスローモーションになっていく。

みんなどんな気持ちで歌っているんだろう。




**




『僕はどうなんだろう』

ドリンクバーの二杯目のアイスコーヒーを飲み終えて、やっと僕は忘れ物を思い出した。僕はいったいどうなんだろう・・。



いつもならば、こんな日常に絡め取られてきた決意。
不安とダメージの計算式の中でいつも引っ込めていた挑戦。


『行っちゃうと、戻れないんだよ』


三杯目に、中国茶を注いで席に座り直す。
口に含むと、さわやかな味を期待していたのに、案外苦い。


『それでも。』

今回は、そう思える。

逃げていない。
甘えてない。
過信はない。
無理じゃない。
・・多分。


ただ。
ちょっと疲れている。
自分を説得するのに、結構、時間とをエネルギーを使ってしまった。



『・・アクションはゆっくりで・・ええよなっ』



レジでおつりを待っている間に、また不安になる。
『ゆっくりやってる間に、また日常に溶かされるでぇ』
その声を振り払うように、僕はガストの重いドアを勢いよく開け
出来るだけ軽い足取りを装って店の階段を降りていった。




ちっぽけな・・勇気。

その通り! 曲のタイトルに拍手。






何が見えるかな






posted by 白井麒麟 at 14:18| 東京 ☔| Comment(0) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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