2007年11月04日

お化け屋敷





忙しいのが、やっぱり不満だ。

タンサイボーはたくさんのことを同時にやるべきではない。
それを無理にやらなければならないのがいけない。
だから、久しぶりに休日の一日があったりすると、
台風の中から南国の楽園に放り出されたような所在なさがあるわけで。
短く言うとそんな気分で僕は土曜日を過ごし、
完全にリズムを失ったまま、翌朝の今、
一人東京発の新幹線に乗っている。


派手な一団の会話の応酬、京都市の地図を楽しげにのぞき込む女性たち、PSPに興じる普段着のサラリーマン、記念撮影する親子・・。

だめだ、と思う。水たまりよりも心の狭い人、それが今日の僕だ。

品川を過ぎる。
イヤフォンで耳をふさいでノートPCを立ち上げる。
PCの背が、めいっぱい背もたれを倒した前の乗客の椅子に当たり
ほとんど垂直になってしまう。ちくしょ。
落ち着け。
かばんから新聞を取り出す。
時事ネタに興味を持てず書評など。
さらにiTuneでカチャカチャと曲を変えてみる。
フィットしない。
記事をコロコロ、曲をコロコロ、気分をコロコロ・・。
オリャァ何モンだ? みたいな感じ。
何をしてもだめ、と思ってしまった僕は、ついに毒に手を出す。
静岡を過ぎたようだ。


実は今日は記念日だ。
苦い思い出の。


iTuneのリストから、「その曲」をクリックする。
恐る恐る。

ピアノのイントロが流れ出す。ゆったりとしたアルペジオ。
そんなことは分かっていた。
僕はあわてて周りを見回す。
メロディは続く。とても美しく、とても暖かく。

うるさい一団が記念写真を撮っている。
PSPの中での対戦は続いている。
前の席の人はさらに椅子を無理矢理ぐいぐいやっている。
何なのだろう。
そんな風景もメロディと重なっていく。

僕は、今、賑やかな風景に囲まれている。
穏やかな秋の光が差し込む車内で、今日を過ごしている。
そのことをうれしく思えてしまう。


古傷も、大切なひとコマ。
踏ん張っても消せないし、ごまかさなくていいじゃん。


新幹線は、
名古屋での少し長い停車からゆっくりとした助走で走り始める。
僕は、そのスピードに合わせるように、
もう一度のそのイントロを滑りださせる。
二回目のお化け屋敷は、ただただ美しく心地よかった。





・・シートに深く座りなおした僕は、ふと不安になる。
そう言えば僕は、徹夜明けの空港のロビーの椅子で”オチて”しまい、
飛行機の出発を遅らせてしまったことがあった。
またも発見した古傷。こっちのはかなり現実的だ。
ホットコーヒーでも注文しようか・・。




posted by 白井麒麟 at 10:43| 東京 ☀| Comment(2) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
本日 2通目のコメントさせていただきます.。*・゜゚

音楽って 記憶とくっつきますもんね
苦い想い出、ごまかさなくていい場所にいられるいまが 素敵ですね。

Posted by しの at 2007年11月06日 20:46
しのさん、こんばんは。
人間長く生きていると、いろんな傷がついていくものですね。小さな傷、大きな傷・・。
いつでもかっこつけずに傷跡を見せられたらいいなぁ、なんて思います・・^^

Posted by 白井麒麟 at 2007年11月07日 00:09
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