2007年11月18日

たまご








夏が終わると同時に、僕は、少し大きな仕事に飲み込まれた。
まさに調整事項の嵐。


「こんな予算じゃできません」
「そこを何とか・・」


「これとこれをマストで盛り込んでください」
「何とかこちらだけで・・」


・・もちろん、いつも情けない顔をしている方が、僕だ。
そして、日に日に関わる人の裾野は広がる。
その仕事は、まるで得体の知れない怪獣のように
少しずつ成長していった。




**



朝の保育園までの道。
仕事のことで頭がパンパンの僕。
それを察してか、息子も黙ってついてくる。
保育園に預けて駅に帰るとき、『あっ』と思うことも
そういえば、今日は家を出てから一言も話をしなかった・・とか。
でもそんな考えもすぐに仕事に飲み込まれて。


保育園までの道。
ある日、僕は手持ちぶさたから遠くのビルの窓を指さした。



「ナーくん、たまごがあるよ」



それは、ビルの二階にある麻雀店の窓に貼られた
大きなシールだった。
描かれたたまごはひび割れていて、
今にも中から何か飛び出してきそうだ。



「ほんとだねぇ」



息子の顔が少しほころぶ。僕は続ける。



「あれ何が入ってるのかなぁ」
「あれはね、あれはね」



息子は吸っていた二本指をちゅぽんっと口から抜いて、
その指をたまごに向けて話し出す。



「あれはね、あれはね、ナーくんと、ヒカちゃんと、
ママと・・パパが入ってるんだよ」



よかった、パパも入れてもらえた。。

それからしばらく、毎朝同じ遊びをした。
入っている人の名前は、そのたびに違ったのだが・・



「あれはね、ナーくんと、ユキノと、コノミと、
ハヤピーが入ってるんだよ」



保育園の先生!
しかも比較的若い先生だけ・・



「あれはね、ナーくんと、ソウヘイと、サエポンと、
ハーちゃんが入ってるんだよ」



今度は、保育園のお友達。
何となくお友達と楽しくやっている風景が目に浮かび、ちょっと安心。


そして、それはある日、
ちょっとドキリとするような答えに落ち着いた。

いつものように、聞く僕。



「ナーくん、あのたまごは何が入ってるの?」



息子がちゅぽんと指を抜く。



「あれはね、あれはね・・
ナーくんと・・ハーちゃんが入ってるんだよ」



ハーちゃんは、保育園のお友達でも一番おとなしい女の子だ。
僕が朝「おはよう」と言うと、もじもじと手を振る、
そのイメージが思い出された。



「ナーくんとハーちゃんはね、たまごから出たらね、
上に乗ってね、お歌うたうんだよ」



そうだったのだ・・

ナーくんは、ハーちゃんが好きだったのだ。


初恋、と呼ぶにはあまりにも幼い思い。
幸せそうに話す息子に、僕はにやけそうな顔を必死で抑えながら
そうか、そうか、と何度もうなづいたのだった。

息子のたまごから生まれたのは、
何となくのハッピーだった。



**



そして先週。
息子のたまごに少し遅れて、僕のたまごもようやく孵(かえ)った。
夏以来の少し大きな仕事。
それが終わったのだ。
最後は、久しぶりの徹夜だった。


生まれてきたのは、果たして天使か怪獣か−−。
その答えはまだ分からないのだけど。





posted by 白井麒麟 at 17:30| 東京 ☀| Comment(2) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お仕事おつかれさまです。

たまごの中から生まれた子の行く末が楽しみですね^^。

それにしても、ナー君かわいいです。(^・^)
ナー君へのパパの愛がすごく伝わってきます。
Posted by みかん at 2007年11月20日 16:43
みかんさん、こんばんは。
PC修理中のため、ケータイからコメントです。

お仕事、順調そうで何よりです。寒くなって来ましたが身体に気をつけていきましょうね
o(^-^)o


Posted by 白井麒麟 at 2007年11月21日 00:40
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。