2007年10月28日

午前三時半





思いつきで曲を録音した。



"Lullaby Of Birdland"



バードランドの子守歌と訳される。



別にジャズに詳しいわけでもない僕が
この曲を知っているのは
四年間、毎晩のように聴いていたから。



アルバイトしていたバーの
レコードだった。



バーボンと
カクテルに使うレモンの臭い。
たばこのフィルターが焦げる
薄暗い店内に
サラ・ヴォーンの歌声が響いていた。



その店以外では、聴いたことない。



つまり
この曲を覚えている僕は
確かにあの頃を生きていたわけで

この曲が
あの日と今日をつないでくれてる・・
なーんて。




家族が寝静まった夜中に
僕の下手なギターが響く。



あの頃なら
アルバイトが終わるはずの時刻
午前四時に向けて。







        『Lullaby Of Birdland』
         Words by George David Weiss
         Music by George Shearing











cocktail






posted by 白井麒麟 at 21:51| 東京 ☀| Comment(2) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月25日

KY






仲間。


遊び仲間
仕事の仲間
何かでつながっている仲間。

そんな人たちと調和していることは
幸せの条件。




KY=空気読めない



という言葉。
そのことをみんなよく知っているという
あらわれなのだろう。




それでも。




とても怖がりな僕は
空気を気にしてばかりだから

時にはわざと
KYになりたい。



自分のこだわり
執着みたいなものを
押し込めてしまうくらいなら。
(いつも押し込めてるんだけど)



だから
僕が好きなのは


KYよりも


SKN=そんなの関係ねぇ


・・笑




posted by 白井麒麟 at 09:37| 東京 ☀| Comment(0) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月21日

火の消えた蝋燭






ケーキに蝋燭を立てる。

一、二・・・十、十一。



まだ幼児の弟君がハッピーバースデーを歌って、
娘が火を吹き消した時、
娘の携帯がメールを受信。


「・・今から出るんだって!」


慌てて玄関を飛び出す娘。
妻と幼児くんが後を追う。


今日がその日らしい。
娘の友達の、引っ越しの日。


がらんとした部屋で、僕はソファを見つめながら思い出す。
そう。去年の今日、その子はあのソファに座っていた。
娘の誕生会のために。



**



僕たち家族は、去年関東に引っ越すことになった。


「何で引っ越さなきゃいけないの」


幼なじみの友達と別れなければならない娘は、
泣いて訴えた。
僕の家族と家財道具を載せた車が滑り出す時、
十数人集まった娘の友達は走り出した。


「ひかちゃーん、ひかちゃーん」


バックミラーに映った見慣れた子どもたちの顔。
娘も身を乗り出して手を振る。


GGC.jpg


娘に初めての友達ができたと聞いた時には、随分安心した。
それは同じマンション、同じクラスの女の子、Aちゃん。
去年の娘の誕生会に、その子は来てくれた。


「それでさー、笑っちゃったんだよね」


その子と話す時の娘が関東弁になるのが微笑ましく、
このままいい友達であってほしいと思ったものだ。


しかし、その後娘は変なことを言い始める。


「何かね、Aちゃんに『Bちゃんと遊んじゃだめ』って言われた」
「何で?」
「Bちゃん家はお母さんが働いてるんだけど、
そのな家の子は愛情不足だらかダメだって
お母さんに言われるんだって」


??。


すでに働き始めていた妻は少しショックを受けていた。

廊下ですれ違ったその子の母親の顔が浮かんだ。
笑顔の裏には、どんな気持ちがあったんだろう、
なんてことを考えてしまった。



その後も娘は、色んな友達と話したり遊んだりするのを
その子に制限された。
「あの子は以前○△だったから・・」とか。
そんなことから、娘とその子は何となく疎遠になっていた。



**



僕は、一瞬の回想から立ち返り、外に出る。
五階の廊下から見下ろすと、駐車場を車が出て行くところだ。
遠く、関西に向けて。



「バイバーイ、気をつけてねー」



ウチの三人が手を振って見送っていた。

他に見送りの人影はなかった。

僕はテーブルに戻ると、
火の消えた蝋燭がささったままのケーキに目を落とす。



世界には、いろいろなことがある。



誰の目にも触れることないもの。
日の光を浴びることなく消える思いも。
それでも・・



「これでいいのかな」



何だか寂しいのは、秋のせいではないのだろう。




教室の前に.jpg




posted by 白井麒麟 at 00:16| 東京 ☀| Comment(2) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月18日

輪郭のない日







「自信がなくなることってあるよね。私、一年に一回くらいあるの」


パジャマ姿の妻が言う。
会社を休んで三日目の彼女は、
朝から疲れた顔で子どもの口にマフィンを運ぶ。
僕はちょっと心配になりながら、
うまい言葉も探せないままに革靴をはく。


**


「ちょっと会議やりましょう」

このところ頭の中を占めている問題がある。
落ち着かない。
心配性のままでは、この仕事は続かないのだけど。
より厳しい解決の道。それを選択しよう、と僕の口が動く。
同僚たちのうなづきは、しかし問題解決の補償ではないわけで。


会議室を出ると、事務が山積みのデスク。
その周りをしばらくうろついたあと、
僕はホワイトボードにでたらめな行き先を書いて
会社を飛び出した。


久しぶりの『仕事中のカフェ』。


「ホットのカフェオレ」


ブラックしか飲まないんじゃなかったっけ・・ まあいいじゃん。
砂糖たっぷり入れても、いいじゃん。


丸い木目のテーブルの上。湯気を立てるカフェオレ。
シュガースティックからさらさら。
口に含んで甘さを確かめた時、僕は心の中で『あっ』と言ったまま
動けなくなってしまった。




さっき通ったこのカフェまでの風景を覚えていない。



そう、そう言えば・・



あの出来事が、昨日だったかおとといだったか分からない。

妻の最近の姿を・・
思い出せない。



慌てて窓の外を見る。
それはまるで、長年の友達の名前を忘れてしまった人が
ところであなたはどちら様? とたずねるように。


外はよく晴れていた。
気候的には、とても気持ちのいい日なのかも知れない。
それは、初めて気付く”今日”。
もう何時間も経ってしまったのに、出し抜けに対面する”今日”。


並木道の銀杏がまだ青いのを見て幾分安心した僕は、
二口目のカフェオレを口に運ぶ。
舌はもう慣れてしまったらしく、
一口目よりも温かさも、甘さも薄らいでいた。



OL





posted by 白井麒麟 at 23:23| 東京 ☀| Comment(0) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月14日

ティータイムはいかが?






肌で感じる秋。



カーペンターズのメロディにのせて

ティータイムなどいかが。






♪Close to You/Carpenters
編曲:岡崎倫典
演奏:白井麒麟











東京自転車




posted by 白井麒麟 at 17:16| 東京 ☀| Comment(0) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月13日

土曜日のローカル線と彼岸花





彼岸花の赤。

ローカル線が駅を出て、
助走をつけるゆっくりとした速度で
赤が、車窓を流れていく。

人影の少ない車内は、何だか平和で
僕はJRのものより少し柔らかいベンチに
深く座り直す。


昨夜のことを思い出す。
僕の心ない反応は、仕事先の女性の心に刺さった。
それに気付いていなかった。



「ひとつだけいいですか?」



会議が終わろうとした時。



「そういう意味じゃなかったんです」



弁明を始める彼女。
堰を切ったように大粒の涙が溢れ出た。



期間限定のへピーな仕事。
よく知らないもの同士が、極限状態の中で進めるからこその

誤解。

すれ違い。





土曜日のローカル線が、ゆっくりと僕を運ぶ。
車窓からはもう
彼岸花の赤は消えてしまって
朝の太陽を反射する川面や
普段より平和に見える住宅街の景色に変わっていく。



ローカル線は、進む。
彼女の働く事務所の方角に。
昨日言えなかった、荷物を載せて。
言葉? 態度?


電車はもう
地下に入ってしまったというのに
僕の中の
赤い残像は
なかなか消えてくれない。




posted by 白井麒麟 at 18:09| 東京 ☀| Comment(2) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月08日

ほこりをかぶっていたものたち





『ちゃんと鍵盤で入力したい』


さすがにマウスとキーボードでは、満足に曲も作れない。
でも、最低限のセットでいい。
シンセをMACに接続さえできれば。
一駅先の楽器店に向かう。


ほこりをかぶった僕のシンセ。


昔作った音楽環境は、「世の中のシリアルはUSBに変わりました」という簡単な理由からほとんど使えないものになっていた。



だからといって、本格的にUSB環境で機材、ソフトを組み直すつもりもなかった。ちょこっと、片手間にできる程度でいい。そんなノリ。

『昔はあんなに夢中だったのに』。

ほとんどの休日を費やしたころ。
懐かしく思ってしまうのを少し寂しく思いながらも。


**


「MIDIインターフェイス、やっすいやつあります?」
「そうですね、このあたりですとお手頃です」


・・。


ケーブルにマッチ箱のような機械のぶら下がった機材を見下ろす。


・・。


『これでいいじゃんか、俺。もう音楽なんてやってる歳でもねぇべ』


・・。


「オーディオのインターフェイスも兼ねたやつって・・」


おいおい、俺。


「それでしたら・・。僕はこれをお勧めしてるんです」


勧められたのは、レコーディングスタジオで使用しているという本格音声編集ソフトの廉価版バンドル。まだ若そうな店員。スピッツの草野に少し似ている。展示してあるMACを慣れた手つきで操作する。


スピーカーからFly Me To The Moonが流れる。
しばらく画面と音に釘付けになる。


トラック数は二つだけ。
第一トラックはアコースティックギターの主旋律。
第二トラックにジャズギターのリズムコード。
シンプルだけどいいアレンジ。その音の波形データが画面上を流れていく。


「・・これ、僕が遊びで録音したやつなんですけど」


ギター弾き! しかもセンスいい。


「僕、以前レコーディングスタジオで働いてたんですよ。その時このソフト使ってて・・」


やられてしまった。
その後、約一時間半。
僕は、商品の機能のことや彼のギターの趣味のことで「へぇ」といい、
彼は僕の持ってる音源について『どこ探してもないんですよ?! のどから手が出ます』なんて言ったり。



気がつけば、僕は我が家の大奥に電話していた。


「ちょっと高いけんだけど・・いい?」



**



軽くインストールでつまづいて・・
(なんで音楽のソフトっていつもこうなんだっ!)

やっとこさ一曲録音し、休日は終わっていく。

そんなわけで、
大枚はたいた新環境と
店員君がオマケしてくれたミニマイクで、

僕は、MACの内蔵マイクをめでたく卒業したのだった。








♪午前3時のメリーゴーランド
/作曲 岡崎倫典
/演奏 白井麒麟













メリーゴーランド











だからといって

ギターの腕が上がるわけではない(笑)






posted by 白井麒麟 at 22:21| 東京 🌁| Comment(2) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月04日

おかっぱ頭(出張二日目の回想U)




四十半ばと見えるのに、おかっぱのような頭。
ホリの深い顔に、細い目。
華奢な身体。
白いよれよれのカッターに黒いスラックスがいかにも似合わない。


マイクロバスの運転手さんは、そんな人だった。


高速道路に上がると、車窓には百道浜や、その周囲の高級マンションの景色が流れる。乗客は(事情により)僕一人。あまりの手持ち無沙汰に、僕は話しかける。


「運転手さん、もう長いんですか?」
「いや・・、まだ一年半くらいですね」


午後の日が差し込む運転席から声が返る。
大きなハンドルを操る小さな背中・・。
年齢から言って、もちろん最初の仕事ではないのだろう。
以前は何を、とつい聞いてしまう。


「実は・・。オートレーサーだったんですよ」


予想外の答えに僕は、びっくりしてその後ろ姿を見つめる。オートレースと言えば公営ギャンブルのバイク競技のことだ。
そう言えば、この近くの飯塚市にレース場がある。そして、言われてみれば彼の風貌はフルフェイスのメットとつなぎの姿がしっくりくる・・。


目的地までの約一時間。
運転手さんは、たくさんのことを教えてくれた。


高校を卒業してから四十三歳で引退するまで、ずっとレーサーだったこと。

多いときは、年収一千八百万円稼いだこと。

全国のレース場を渡り歩いたこと。

北海道では、雪の中を走ったこと。

勝利した時は、小学校の運動会と同じようにたまらないこと。

競技の人気が落ちたこと。

最近は一回のレースで二カ月分稼ごうと無理していたこと。

出来れば生涯レーサーで過ごしたかったこと・・。


「この仕事(運転手)は、時間が絶対。お客さんとのトラブルがタブーですからね。レーサーなら負けて観客席から『死ね』とかヤジ飛ばされても、まあ関係なかったんですけどね・・」


マイクロバスが走る。
高速を下りた山道を走る。

ハンドルを操作する。
勝利のためではなく
見知らぬ僕を運ぶために。


子どもが二人。
これから大学に入れてやらなければならないらしい。


後ろ姿を見つめる。
何か・・
何か、言葉をあげたい・・。
なんて余計なことを考える。


「・・運転者さん」


気がつけば僕は、
自分の言葉がどこに向かうのかも予測できないままにしゃべり始めていた。


「ずーっと続けられたのが、一番すごいですね。
大きなケガもなく、無事でずーっと続けてこれたのが」


何だか不用意なことを言ってるなぁと思いながら。


「無理して、その時はよくても・・長い時間がたったら
そうじゃないってこともありますもんね。
僕は、運転手さんが、ずーっと無事でレーサーをされたことが、
一番すごいと思います」


『支離滅裂だなぁ』とか
『分かったようなことを言うな』とか思いながら、
そんなことを話してしまった。

運転手さんは、静かに遠くを見つめていて。
そのポートレートの背景に田んぼが流れていく。


「・・そうですね」


よかった、怒ってない。


「僕はあまり強くなかったけど・・」


自嘲的な笑い。


「僕の同期には、めっぽう速いやつがいてね。
そいつ・・死んじゃいましたもんね」


**


目的地に着き、バスのタラップを降りる。


「じゃあ、またお時間になりましたら・・」


僕とはまったく違う人生を知るその先輩は
そう言って営業モードに戻り、
よれよれのカッターとスラックスに馴染まないおかっぱ頭をぺこりと下げる。


場所も立場もまったく違う人生があるということ。
この世の中にある無数のパラレルの不思議。
当たり前なのだけど。


待ち合わせ場所の椅子に座った僕は、
目の前に貼り出された「裾を出してプレーしないで」という
注意書きをぼんやりながめていた。

その漢字がソデではなくスソであることに気付くまでに
十五分ほどかかった。







飯田橋
posted by 白井麒麟 at 00:44| 東京 ☁| Comment(2) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月01日

麦わら帽子





写真を整理していると、一枚の中に見つけた。
偶然の、麦わら帽子。



知らないおじさんがかぶったその帽子を見ながら
最近、麦わら帽子を見なくなった、はたと気付く。




小学校の低学年、夏のファッションと言えば、麦わら帽子だった。
短パンの上はランニングシャツ。
出がけに親に無理矢理かぶらさせた麦わら帽子。
これに釣り竿か、虫獲り網でもあれば、立派な七十年代小学生の出来上がりだ。


小学校も高学年になると、野球帽の方が好きになった。
「麦わら帽子? 田舎臭いしダサイし・・」
みたいな感じ。それ自体ダサイとはその頃は気付かない。



ただ、父親が釣りに連れて行ってくれる時だけは、麦わら帽子だった。



夏の日曜日。
朝から車に揺られてどこだか分からない瀬戸内海の岸にたどり着く。
コンクリートの岸壁が暑い。


「ハゼは食いついた時に釣り上げる。だから川用のつり竿がええんじゃ」


ふーん、と思いつつリールの付いていない竿を受け取る。
ホントは親父の新しいカーボンファイバーの竿がいいなぁと、
渡された古い竿を眺めていると後ろからがばっとかぶらされる。


縁がでかく、真ん中の盛り上がりの部分は小さい。
何故かその部分に黒い帯が巻かれている(とてもリボンとは呼べない)。
ちょっとぶかぶかだが、あご紐が付いているから大丈夫。
この上ないまぎれもない麦わら帽子。


親父を見ると、同じデザインの麦わら帽子に、ランニングシャツ、短パン・・
小学校低学年と同じ格好!!
黒縁の分厚い眼鏡の奥の近視眼に、指にはさまれてうにょうにょと動くゴカイ(えさ)をめいっぱい近づけて、針を通そうと奮闘している。


その姿に少々気圧されてか、僕は何となく釣りが好きになれなかった。
ゴカイのうにょうにょも気持ち悪かった。
でも・・
ああいう事ができないと、ホントの男、ホントの大人じゃないんだよな、と。
その感じは今でも身体に残っている。




麦わら帽子は
   小学校低学年の僕、友達


麦わら帽子は
   日曜日の親父


麦わら帽子は
   何となくの平和



そして・・



       西条八十の詩「帽子」

       母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?

       ええ、夏碓氷から霧積へ行くみちで、

       渓谷へ落としたあの麦わら帽子ですよ・・・





麦わら帽子は

   戻らない夏の日




今では、親父も・・
黒縁眼鏡はフレームレスとなり
ランニングシャツはポロシャツになり
麦わら帽子が必要なほど外に出なくなった。


僕も、麦わら帽子は一つも持っていない。
では、我が家には一つもないのか・・


ああ、かろうじて
押し入れに眠っているはず。


娘が保育園の時
創作活動で
向日葵の絵を描いた
小さな麦わら帽子。


「ヒカぁ」
「はぁ?」


リビングから、娘の返事がかえってくる。
現代の子ども、これからの子ども。
大人になった時、
麦わら帽子の思い出があればうれしいのだけどと思い


『それって僕の役目じゃん』。


そう気付いた時
親父の隆々とした背中にはり付いたランニングシャツの白が
遙か昔の夏の光を浴びて
またしても
神々しく光り始める。






麦わら帽子の男





まずは
ランニングシャツを買いに行こう(笑)







posted by 白井麒麟 at 20:10| 東京 🌁| Comment(4) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月30日

出張二日目の空っぽの時間


午前十時。
ホテルをチェックアウトしてリュックを背負い直す。
あてどもなく歩き出す。

横断歩道。
「ビー・ビービー・ビービビ・ビー」という、通りゃんせのメロディとともに
「天神」という交差点の表示が目に入る。
そのメロディが、しばらく歌詞付きで頭の中でリピートする。
「・・ここはどこの細道じゃ〜 天神様の・・」
!!
そうか。ここは博多天神だから「通りゃんせ」だったのか・・


得意先との親睦旅行は、去年同様、福岡になった。
そして、去年同様、二日目はひとりで過ごすことになった。
僕はゴルフをしない。



博多路地




「去年と違う道を歩こう」

ふらふらと路地を曲がると、妙な女の子が立っている。
赤いブラウス、黒いビスチェ、紫がかった髪、ピンクのバックを斜めがけ、
そして、太った身体・・
その娘が歩き出した方向と僕のそれが一緒だったので、僕はしばらくその娘の後ろをついていく格好になる。

「このままちょっとついていってみよう・・」

視点同一化。いわゆるイタコ術。
白いふわふわのスリッパをペタペタいわせながら、悠然と歩く。
すれ違うカップル、おばさん・・みな困惑したような視線。
それが四方八方から突き刺さってくる感じ。
それをものともせず、黙々と歩いていく。
コンビニの前を通過する時。
座り込んだチンピラ風の男、数人、にやけ顔。

「もえ〜っ!」

娘は三歩進んだところで振り返る。

「バカじゃなかとっ?!」

すぐに前に向き直り、何もなかったように歩き出す。
彼女から見た世界はとてもスリリングだ。




彼女からスピリットを取り戻して、歩く。
ケータイで写真でも撮ろうと思うのだが、撮りたい絵が見つからない。

「昨日、あれを撮っておけばよかったなぁ」

昨夜遅く、「焼きラーメン」を食べた。
舗道に並んだ屋台、裸電球の列、ラーメンと赤い字で書いた白い暖簾、
「お客さん、座って食べて。立って食べられると警察に怒られちゃうから」
という店のおじいさんの声・・。

あれが、今回の僕にとっての福岡だったんだ、と。
大切なものは過ぎてしまってから気付くという、恒例の失敗をまたも繰り返したわけで。



秋ですね




僕は、昨日という一日の中に、何か忘れ物をしている。

それが何だか思い出せない。

またも聞こえて来た「通りゃんせ」。
何度も聞くには、このメロディは少し陰鬱だ。
僕は歩くのにちょっと疲れたというのを理由に、ガストに入る。
せっかくの福岡で、ガスト。
最悪の選択にちょっと照れながら、昨日のことをノートに書き始める。





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posted by 白井麒麟 at 14:18| 東京 ☔| Comment(0) | あしもとの小さな音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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